スタート前

スタート前、俺は勝っていた。
空は青い。
頭も青い。
写真の中の俺は、光を背負っている。
このあと自分の腸に敗北する男には見えない。

朝、初めて MAURTEN320 を飲んだ。
しかも二袋。
「エリートも飲んでるしな」
だいたい、ここから負けは始まっている。
甘い。
飲みやすい。
ゴールが約束された味。

10キロ
腹の奥で、風神が目を覚ます。
15キロ。
雷神が加入。
20キロ。
みだれ太鼓。
だんじり祭り。
内臓、完全覚醒。
お尻から汽笛。
トイレ。
戻る。
またトイレ。
この時点で俺は、
マラソンをしているのか、
駅員なのか分からなくなる。
出るたび軽い。
だがそれは、走りの軽さではない。
物理的軽量化。

30キロ
脚はまだ残っている。
心肺も穏やか。
だが腹が主導権を握っている。
風神雷神、赤と黄のブラストビート。
ナパームの吐息。
奥で鳴る。
足の第3・4趾が反乱。
地面が急に冷たい他人になる。
歩く。
揉む。
走る。
また歩く。
歩苦。
1キロが人生の縮図になる。

ゴールへ
4時間40分超。
悔しいのはタイムじゃない。
「最後まで気持ちよく走れなかった」こと。
それでも、
やめなかった。

空は変わらずブルー。
頭もブルー。
完全敗北に見えて、
どこかで笑っている自分がいる。
ああ、腹が減った。
腹だけは、最後まで正直だった。

完走した。
勝ったとは言っていない。
