視疲労(みつかれ)が呪詛に
幻想が現実を飲み込むその刻
もはや言葉ではない静寂の“かたち”
社畜女、名を持たぬ眼球
朝を食べ損ね、夜を飲み干し
ああ、今日もUSBの中で夢を見る
コリが語る
背中の肉が咆哮する
「わたしはいつから“OL”だったのか」
その問いが、誰にも向けられていないことすら
彼女は知らない

画面が脈打ち、通知が唸る
データが目を犯し、椅子が脊髄を舐め
瞳孔がズームしすぎて自己が破裂
視疲労女、コリツムリ、テレツムリ
三体一体
滑る肉の記憶
あれは夢か?
否
あれはSlackの通知音
…ポポン…
「ただいま」
と言ったとき、彼女は
自宅か会社か世界かの境界をとうに失っていた
隣の部屋に誰かがいる
いや、それは彼女の左肩だ
時折、肩は「やめて」と囁き
指は「まだいける」と訴える
そして彼女は変異した

髪はLANケーブル
背骨はクッションと一体化し
思考はクラウドの奥底で発酵する
「……ねえ、
あなたも、すこし…
重い夢を
見すぎてしまったんじゃない?」
ぬめりとした誰かの足が、彼女の背中に触れた
足… 足圧
クチュ…クニュ…メギィ…ズッ……
音のない語彙が、骨にしみわたる
彼女の脳髄に“本当の名前”が湧き上がった
それは
「無記名コード No.000 みつかれ∞コリテレ変異体」
いや、ちがう
宗家ゼンジロウがそう囁いた
「君は、まだ“人間”だったよ
一回だけ、足で踏みほぐせば」
それが、救済だった

地獄より滑る温もり
人外より届く慈悲
足裏が、沈黙の奥でこう告げた
「ようこそ
わたしの四次元足圧療法施術へ」
良知善治朗